家族のためにも考えよう、実は身近な相続税のこと【3/5】
3:相続と税にまつわる基本的なこと ~まずは下調べ~
さて、お茶会を終えたC子さんは、友人たちと次回の約束をして帰宅しました。
いつものように家事をこなして過ごすうち、頭の中も少しずつ落ち着いてきます。
そうなってくると、C子さんの性格上、後々に響きそうな事柄を放ってはおけません。
母親にそれとなく尋ねてみたところ、やはり父の持っていた土地は新しく更地となっていました。
その上で母親も、同じく土地持ちの知人のところへ土地デベロッパーが打診に来た、
という噂を耳にしていたようです。話はますます現実味を帯びてきました。
しかし、相続税に関する懸念を耳にしたとはいえ、常日頃から父の体調を深く気遣う母に、
そのまま疑問や不安を丸投げすることは気が引けます。また、内容自体が不確かなうちは、
働き盛りの弟や、仕事に打ち込んでいる夫に知らせるのも負担になりそうです。
C子さんは、まずインターネットでごく基本的な知識をつけるところから始め、
初心者なりに、自力で出来る範囲の下調べをすることに決めました。
これまで土地や相続税など気に留めていなかったため、素人という自覚もあります。
それでも、長女として家族を想う気持ちが、大きな原動力として背を押したのです。
基礎知識1:相続とその範囲について知ろう
そもそも“相続”について、ぼんやりとした認識しか持っていないことに思い至ったC子さん。
『莫大な資産を有した家長の突然死――遺産相続配分を巡る、骨肉の争い!』などという、
サスペンスドラマ風の物騒なテロップが浮かんでくる始末です。
「うちはもっと一般的な水準、普通の家庭なんだから……きっと弁護士だって必要にならないわね。
まずは定義から固めて、曖昧なイメージを払拭しましょう」
そういうことなら、ぼくらも張り切って応援しないとね。
それにしても、C子さんの連想ったら極端だなぁ~。
すっかり立ち直ったみたいで、前向きなのは何よりだけど。
何もないうちからしっかり把握している人も珍しいんじゃない?
ということでサクラくん、解説よろしくね!
簡単でいいから、わかりやすく!
少しはC子さんを見習いなよ。まぁ、いつものことか。
「相続」っていうと、ある人が亡くなったことで、
その財産などが遺族に継承されることだよね?
付け加えると、相続放棄や限定承認などの手続きをしない限りは
自動的に、債務も含めて相続することになるね。
ここで最初に、基本的な用語も把握しておこうか。
●被相続人
財産の元々の所有者であり、亡くなった人を指す。
(相続は死亡によって発生するが、失踪宣告や認定死亡も含まれる)
●相続人
被相続人の遺族で、一定の親族関係にあり、財産やそれにまつわる
権利義務を継承する人。(被相続人の死亡によって確定するので、
相続開始前には、推定相続人という)
どちらが「被」なのか、うっかり取り違えないようにしなきゃ。
被相続人は亡くなった本人だからハッキリしてるけど、
相続人の範囲は?「一定の親族関係」ってどこまでなの?
それ以外の親族からは、次の順位で相続人が決まるよ。
- 被相続人の子供(実子・養子)
もし子供が既に死亡していれば、
その死亡した子供の直系卑属(子供や孫)へ。 - 被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)
(1に該当する人がいない場合) - 被相続人の兄弟姉妹
(1にも2にも該当する人がいない場合)
民法第886条から、胎児も相続においては既に生まれたものと
みなされるから、相続人・被相続人になりうるよ。
(ただし、死産であった場合には適用されなくなる)
内縁関係の人は相続人に含まれないのもポイントかな。
2と3はより上位に該当する親族が不在の時に補うものなんだよね?
じゃあ、C子さんの家族構成で言うと、
仮に父であるA郎さんが亡くなった場合、こんな感じになるのか。
- 被相続人
亡くなった人 …… A郎(父) - 相続人
亡くなった人の配偶者 …… B代(母)
亡くなった人の子供 …… C子(長女)、D介(長男)
上記で省いた同序列内での優先順位などの詳細は、
国税庁が公開しているページで確認できるよ。
国税庁 > 相続税 > 相続人の範囲と法定相続分
相続の基礎知識まとめ
相続原因が発生したこと(死亡など)によって、
被相続人の財産や債務が、相続人へ移転することを指す。
回避するには、期限内に相続放棄や限定承認の手続きが必要。
●被相続人
財産の元々の所有者。
相続は、その死亡(失踪宣告や認定死亡も含む)によって発生し、
被相続人の住所において開始する(申告書を提出する税務署などに関係)。
●相続人(相続開始前は推定相続人という)
被相続人と一定の親族関係にあり、財産とその権利義務を継承する。
●相続人の範囲(遺言書が無い場合)
被相続人との間柄により、以下の順位で定められる。
- 被相続人の子供(実子・養子)
- 被相続人の直系尊属(父母、祖父母)
- 被相続人の兄弟姉妹
ただし、配偶者は、常に上記の序列で相続人となった
親族と同順位で相続人となる。
基礎知識2:相続税の概要を掴んでおこう
相続の基礎から出発したC子さん、法律関連の堅い言い回しには、ちょっぴり肩が凝ったようです。
それでも土台となる知識はまとまり、少し自信がついてきました。
「次からはミステリー小説の題材で出てきたって、流さずに読めそうだわ」と鼻歌交じり。
その勢いに乗って、続けて次のステップへと調べ物を進める様子です。
けれど、C子さんの冷静な部分は、無鉄砲に突っ走るのを良しとしません。
「どうせなら、効率よくいかなくっちゃ! 公的な機関が資料をまとめたページを
中心に探していければ、数を絞り込みやすいし、内容だって確実なはず……」
ちょうど国税庁のホームページに、『タックスアンサー』という、税務相談室を模した回答コーナーを見つけます。
その中には、相続税のカテゴリーもありました。
国税庁 > 税について調べる > タックスアンサー > 相続税
C子さんは、これらのページを辿って、気になる部分から読んでみることにしました。
準備体操を終えて、前進への一歩を踏み出したところかな?
相続税について調べる上で、良い参考になるページも
見つけられたみたいだし、しばらくは一安心だね。
でも、ぼくは難しい文章を読むのって、あんまり得意じゃないから……。
つまりその、サクラくん、解説よろしくね! 手短に!
ここでは本当に基礎的な部分だけ、まとめて簡単に紹介するからね。
「相続税」は言葉の通り、
「相続する財産にかかる税金」ってことでいい?
何十年と積み重ねた財産が元になるわけだから、
その税金だけでも相当な額になるのは予想がつくね?
でも、例えば普段から支払っている消費税や所得税と比べて、
事前の対策による節税効果を期待できるのがポイントさ!
頻繁に区切って支払う必要がないぶん、何年もかけて準備ができるでしょ?
相続自体はまだ先のことでも、予め対策をしておけば、
支払う税金を減らせるかもしれないんだ?
今この場で全部は解説できそうにないけどね。
言わばそのノウハウも、相続税に精通したプロならではの、
腕の見せどころのひとつなのさ。
たぶん今のぼくに言われても、頭が追いつかないと思うし……
じゃあここは、軽~く次の質問!
相続税は、相続人の誰もが例外なく支払うことになるの?
確かに、全ての相続において必ずしも相続税が発生するわけじゃあない。
国税庁 > 相続税 > 相続と税金 > 相続税がかかる場合
遺産額(評価額)自体が、基礎控除額以下の場合は、
相続税は発生しないんだ。免除されていると思えばいいかな。
相続税が課せられるのは、遺産のうち、基礎控除額を超えた部分だけ。
その部分のことを、課税遺産総額と言うよ。
基準として、基礎控除額が設けてあるのか。
もし全員が支払うなら、「相続税って、お金持ちだけの話でしょ?」
みたいなイメージが広がるのは変だと思ったよ。
それじゃあ、相続税が発生した場合はどうなるの?
相続人の代表宛てに、相続税申告書の用紙などが郵送されてくるね。
通常は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内に
相続税の申告と納税をしなければいけないんだ。
期限を過ぎてしまうと、更に無申告加算税や延滞税がかかるかも。
国税庁 > 相続税 > 相続税の申告と納税 > 申告と納税
しかも、相続税は金銭で一括納付が原則でね。
延納(金銭での分割払い)や、物納(不動産などを納める)
も可能だけど、一定の要件を満たす必要があるよ。
国税庁 > 相続税 > 相続税の申告と納税 > 延納
国税庁 > 相続税 > 相続税の申告と納税 > 物納
相続税額を明確に算出、専門的な申告書の作成、
納税のための資金調達なんかも必要かな?
どれもこれも、一筋縄ではいかなそうな大仕事だね。
ただでさえ親族が亡くなって、喪失感や心痛のさなかだろうに……
その上お金の問題で、頭まで痛めなきゃならないの!?
家族にそんな心労を掛けたくはないかもしれないね。
だからこそ、相続税に関しては、
早めに見極めや準備をしておくべき、と言えるんだ。
相続税の基礎知識まとめ
財産から債務を除いた遺産額が、基礎控除額を超えた場合、
その超過部分(=課税遺産総額)に対して発生する。
課税の対象となる額が大きく、また相続の開始までは
発生しないため、事前の節税対策効果が期待できる。
●申告・納税の期限
相続の開始(=被相続人の死亡)を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う。
期限を過ぎると、遅延による税(加算税・延滞税)も課されることがある。
●納税方法
金銭での一括納付が原則。
要件を満たす必要があるものの、延納(=金銭での分割払い)や、
物納(=金銭以外のものを納める)による納税も認められている。
解説ページ索引(全5回)
- 〈導入〉税制改正と、開発・区画整理による地価上昇の影響
- 〈小耳に挟んだ噂〉軽々しく言えない・聞けない、大きなお金のハナシ
- 〈基礎知識〉相続と税にまつわる基本的なこと ~まずは下調べ~【このページです】
- 〈詳細確認〉相続税って、他人事じゃないの? ~少し踏み込んで~
- 〈実践〉結局のところ、自分にとってのベストな方法とは?