家族のためにも考えよう、実は身近な相続税のこと【4/5】

4:相続税って、他人事じゃないの? ~少し踏み込んで~

ここで一度、C子さんの立場を例にして、相続の概要を振り返ってみましょう。

今のご家族の健康状態から予測するとしたら、被相続人になる可能性が
一番高いのは、高齢で持病を持つ、父であるA郎さんです。
その場合、相続人になるのは、A郎さんの配偶者であるB代さんと、
それから実子であるC子さん・弟のD介さんで、計3人となります。

配偶者と子供が相続人である場合、それぞれの法定相続分は、
まず「配偶者と子供」という大きな括りで、全額を二等分します。
そこから、同順位内に2人以上いる場合は均等に分けるのが原則なので、
子供の取り分である全額の1/2を、更に2人で二等分です。

結果として、法定相続分に従うと、C子さんは遺産の1/4を相続するようです。
ただし、被相続人・A郎さんによる遺産承継の遺言があれば、
原則として法定相続よりも遺言が優先されます。

また、少しばかり極端な話になりますが、相続欠格(重大な不正行為を行った場合)や、
廃除(被相続人に対して虐待や侮辱などを行った場合)として、相続権を失うこともあります。

もっと身近な可能性としては、相続人のうちの誰かが相続放棄したり
(財産と同時に債務も継承されるため、負債を抱えたくないなど)、
新たな法定相続人が見つかった(認知していた非嫡出子など)場合にも、
相続分は変わってくることになります。

こういった不安要素は、事前に話し合いや専門的な調査を行うことで、ある程度の洗い出しが可能です。
相続開始時に問題とならないよう、できる限り確認しておきたいですね。

詳細確認1:税制改正(平成27年1月1日施行)の影響とは?

前提となる基礎知識を踏まえ、相続税の概要を掴めてきたC子さん。
表現を噛み砕きながら理解していくのにも、少しずつ慣れてきたような気がします。
このあたりでステップアップして、C子さんの漠然とした不安を明確にしていきたいところです。

相続税をキーワードに検索していると、「平成27年1月1日」という日付をよく目にすることに気が付きました。
その日付以降に適用となった税制改正の中に、相続税に関する変更も含まれていたようです。
もしかすると、対応が必要になるかもしれません。

「やだ、これってわりと最近のことよね? どう変わったのか確認してみなくちゃ!」
新しい情報にも見落としのないよう、参考になりそうな公式ページを探し始めます。

まずは国税庁のホームページ内に、相続税・贈与税特集を見つけました。
改正のあらましが掲載されていましたが、その前書きによると、平成27年1月1日というのは
施行を定められた日付であり、内容自体は平成25年度税制改正によるものだとわかります。
国税庁 > 税について調べる > 相続税・贈与税特集

続いて、財務省の税制ホームページを辿っていくと、件の改正内容が記された
平成25年度税制改正のパンフレットも発見します。資産課税のページ内に相続税の解説があり、
こちらは色分けや図説を取り入れてあるため、初心者のC子さんにも見やすい印象でした。
財務省 > 平成25年度税制改正パンフレット > 資産課税

「へぇ、どちらのページも、印刷用のPDFが用意されているみたい。
 資料を紙にプリントしておけば、空き時間にじっくり読んだり、家族に説明をする時にも役立ちそうだわ」

おやおや、調べ物も板についてきたようだ。

不慣れな分野だろうに、よく投げ出さなかったね。
向上心の賜物かな!

へへ、なんだか嬉しいなぁ……。
いやいや、クロウくんを褒めたわけじゃないから!

参考にしてって話だったのに。
ちゃんと聞いてた?

わかってるよ~。C子さんの前進が喜ばしいの!
よし、これはぼくらも負けてられないぞ。

サクラくんの急ぎ足解説、早速行ってみよう!

ぶれないなぁ……まぁ、概要くらいなら構わないよ。
まず、平成25年度税制改正のうち、相続税に直接関わってくる部分は、
おおよそ以下の4点かな。

  1. 基礎控除額の引き下げ
  2. 税率構造の見直し(最高税率の引き上げ含む)
  3. 未成年者控除・障害者控除を引き上げ
  4. 小規模宅地等の特例に関する見直し

今回はC子さんも含めて、多くのケースに影響の出てきそうな項目、
1と2のみに絞って説明していこうか。

あれっ? いきなりだけど、基礎控除額といえば
「この額以内なら、相続税は発生しません」ってラインじゃなかった?

改正前なら基礎控除額以内だった場合でも、
改正後の新しい額からは、はみ出してしまうかもしれない……。
つまり、相続税の発生する層が拡大するってこと!?

いざ相続税が発生すると、申告・納税の義務があるから、
定められた10ヶ月の期限内にやらなきゃならないことが
色々と山積みになる、って話だったはずだよね。

うん、よく覚えてたじゃないか!
だから、今まで自分には関係ないと思っていた人こそ、注意が必要なんだ。

じゃあ具体的に、基礎控除額の算出法を比較してみよう。

●改正前
  5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数
●改正後
  3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数

基礎控除額は、まず土台となる額があって、
更に法定相続人の数だけ加算される額の2つで構成されているんだね。

それぞれが、改正前の6割に引き下げられているわけだ!
4割も削られると思うと、だいぶ違ってきそうだけど。

C子さんの想定するケースなら、法定相続人は3人
この場合の基礎控除額は、改正前と改正前後で次のようになるよ。

●改正前
  5,000万円 + 1,000万円 × 38,000万円
●改正後
  3,000万円 + 600万円 × 34,800万円

うわぁ、こんなに差が出るものなの……?
これは気付いてないと危ないかも。うかうかしていられないな~。

じゃあC子さんの場合、財産から負債を引いた遺産の総額が
4,800万円より多ければ、その基礎控除額を超えた
差額の部分に対して、相続税が発生するんだね。

そういうこと!

じゃあ次は、税率構造の見直しについて。
これはどちらかと言うと、富裕層に影響が出そうかな。

まず課税遺産総額を、各相続人が、法定相続分に応じて分配するよね?
その金額によって、課税率が異なるんだよ。

相続人毎の取得金額が大きくなるほど税率も高くなる仕組みに
なっていて、それを税率構造が区分しているのさ。

へぇ、やっぱり「相続税はお金持ちのほうが大変」って
イメージにも、ちゃんとそれなりの理由があったんだ。

具体的にはどう変わったの?

ふむ、変更があったのは税率構造の一部だからね。
ここでは、改正の影響を受けるところだけ紹介しようか。

課税率は各法定相続人の取得金額に応じるんだけど、
改正前の税率構造は、6段階。そこへ間に1つ挟んで、
上限も新しく追加した
から、改正後は8段階さ。増えた区分は、次の2つ。

●2億円超~3億円以下
  税率45%(改正前:1億円超~3億円以下は、一律40%)
●6億円超~
  税率55%(改正前:3億円超は、一律50%)

詳細は 財務省 > 平成25年度税制改正 > 資産課税 のページにある、
税率構造の見直し』部分で確認できるよ。

巨額の相続を受ける人は、この税率構造の細分化によって、
より高い税金を支払うことになるかもしれないのか。
うん。ここで解説した内容だけでも、
相続税の発生を想定していなかった人と、
ある程度の納税を覚悟していた人
そのどちらにも影響が出る可能性があるってことだね。

平成25年度税制改正の影響まとめ

次の1によって、相続税の申告や納税を必要とする層が拡大し、
また2においては、相続額が一定以上になる富裕層の
課税率が高くなる可能性があります。

  1. 基礎控除額の引き下げ
    5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数
    上記の基礎控除額を、改正後は次のように縮小。
    3,000万円600万円 × 法定相続人数
  2. 税率構造の見直し(最高税率の引き上げ含む)
    各相続人の取得金額に応ずる税率構造を、
    改正前の6段階から、8段階に細分化。
    最高税率も50%から55%へ引き上げ。
  3. 未成年者控除・障害者控除を引き上げ
  4. 小規模宅地等の特例に関する見直し

詳細については、財務省のパンフレットをご確認ください。

詳細確認2:更地の相続税対策には、賃貸物件を建てるべき?

税制改正の概要を確認したところ、C子さんの想定するケースにおいて、
基礎控除額は 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円。
これはもしかすると、父であるA郎さんが亡くなった場合には、
相続税が発生してしまうかもしれない、とC子さんは考えました。

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もし、この先も周辺の開発が進み、土地の評価額が上がっていけば、どうなるでしょう?
ただ土地を所有しているだけでは、現金収入に繋がりません。
それなのに、遺産総額が増えることで相続税まで釣り上がり、
納税資金の調達に難儀する可能性があるとしたら……?

こうなってはいよいよ、調べ物を始めるきっかけとなった疑問へ取り掛かる時です。
『噂の通り、持っている土地の相続税対策として、賃貸物件を建築すべきか否か?』

とはいえ、噂を耳にした時もそう感じたものですが、保守的・堅実派を自負するC子さんの意識では、
借り入れをしてまで建物を、というのはやや抵抗を感じるのも事実です。

「選んだ後に後悔したくないし、まずはどうして節税対策になるのか知りたいわ。
 もし見つかれば、他にどんな方法があるのかも……。色々と比べる対象がほしいものね」

今回C子さんは、インターネット上のページをあちこち跨いでみるようです。
情報量が増える反面、取捨選択の難易度は上がるはずですが、思うような成果は出るのでしょうか?

本題に入れたようだし、C子さんの調べ物も、そろそろ大詰めらしい。
でもここから先は、少し大変になりそうだ。

さて、今回は更地の相続税対策についてかな?

あれ? サクラくん、なんだか乗り気?
ぼくからお願いする前に話を振ってくれるなんて、助かっちゃうなぁ。

いよっ、頼れる解説役! コザクラインコ、格好いい~!!

もう、茶化さないの!
これまでの流れからして、早めに解説に入った方が
スムーズだと思っただけのことさ。

言っておくけれど、クロウくん向けの、初心者講座だから。

充分だよ! それになんとな~くだけど、思うんだよね。

更地のままに比べれば、賃貸物件を建てることで土地の相続税が安くなる
というのは本当なんでしょう? 噂でも、元は業者さんの言葉だしさ。

詐欺のたぐいじゃなければ、少なくとも事実の一面ではあるはずだもの。

……まったりしてるかと思えば、時々シビアに切り込んでくるよね、
クロウくんって! まぁ、確かにそのとおり。
でも、具体的な話は、本当にケース・バイ・ケースだよ。

前提として、土地にかかる相続税は、対象となる土地によって、
計算方法が細かく異なると思っておいてね。
大まかには、路線価方式倍率方式比準方式かな。
国税庁 > 相続財産や贈与財産の評価 > 土地家屋の評価
国税庁 > 相続財産や贈与財産の評価 > 農地の評価

例えば、地目別(宅地、田・畑の農地、山林など)で
計算して評価額を出すでしょう? 更に、建築物の有無や、
土地の利用状況(貸し借りなど)でも、影響が出てくるんだ。

うぅ……久々にこんがらがってきたぞ。
これまでと比べると、一気に専門的で難しい話になった気がする。

これはC子さんも、土地の具体的な情報を把握していなければ
計算しようがなさそうだ。情報があっても、自力でできるのかな?
正確に出せなきゃ、意味がないわけだし……。

だからここでは、具体的な土地の評価額や相続税額なんかは
ひとまず置いて、ちょっと別の視点から考えてみようか。

たいていの人にとって、本当に気になるのは、
最終的に損をするか、得になるかってことだと思わない?

それは確かにね。……ふむふむ、話が見えてきたぞ?

実際には、賃貸物件を建築した場合に「節税できる額」と
掛かる費用などの損失」の釣り合いが重要なのか!

よく気付いたね。そこを出発点にして話を勧めるよ。

まず、賃貸物件を建築した場合、そこは「所有者が自由に使えない土地
とみなされるため、土地の評価額は下がる
おおむね、20%ほど低くなると考えておこう。

加えて、建築費用よりも、建物自体に対する評価額は低いんだよね。
一般的には、建築費の50~70%になる。
それが賃貸住宅で、借家人が存在すれば、更に下がると考えていい。

上の2点から、相続税の課税対象が減る、つまり土地の評価額は低下し、
財産自体も建築費用で目減りするでしょう?
建物の評価額は、建築に費やした金額に満たないからね。

結論として、「被相続人の財産で賃貸物件の建築を行うと、
相続税対策になる」と言っているわけさ。

おぉ~。細かい計算抜きでなら、イメージできる!

もし、賃貸物件を建てるなら、かなりのお金を動かすよね。
メリット・デメリットについて知っておきたいかな。

節税以外でのメリットとして思いつくのは……
例えばの話、建築時に借金をせず、賃貸物件の家賃を最初から
推定相続人の現金収入にできれば、納税時への備えになったりしない?

手続きは必要になりそうだけど、確かにね。
念のため、賃貸収入には、所得税と住民税がかかることに留意しよう。

じゃあ、デメリットの可能性も挙げてみようか。
本当に節税とのバランスが取れそうか、考えてみるといい。

最初に、建築のために借金をした場合、その後の資金繰りに苦しむことにならないか?
もしこれで相続税の支払い時に困るようなら、ベストな対策とは言えないからね。

主には空室リスク! 入居者がなければ、当然収入にならない。
近くに賃貸物件の成功例があるからといって、同様に空室が埋まるとは限らないよ。
入居側の要望と合うかも考慮すべきだし、近場の成功例=自分の競合相手ってことさ。

次に、築年を経れば、修繕・維持費用が必要になる。
建物が朽ちるまでに費用を回収できるか、という問題だね。

後は……そうだ、現金と違って分けられない財産になるし、
次回以降の相続発生時に、遺産で揉めたりしないかな?

うわぁ、気を付けるべきポイント、けっこう多くない!?
さすがサクラくん、厳しいことも口が回るな~。

ついでにひとつ、思い付いたことがあるんだ。
さっきの、賃貸物件を建築した場合の節税例を振り返ってみたけど……。

建物の評価額が建築費用を下回るのを利用するなら、賃貸に限らず、
自宅を建てるのだって節税にならないかな?

ふむ、それで事足りるケースもあるかもしれないね。

それに、土地自体に思い入れがないのなら、
場合によっては誰かに貸したり、売却してしまったっていいんだもの。

財産や相続税額を把握した上で、各人の資産状況に合わせて
バランスを取ること本当の節税対策に繋がるんだよ。

なるほど。

節税対策を考えるなら、まずは資産や相続税の見積もり
行ってから、一番良い方法を模索するべきか。

その場凌ぎにならない、資産の守り方を考えたいね!

賃貸物件の建築による節税対策まとめ

●節税効果が見込めるのは何故なのか
被相続人の財産を用いて、賃貸物件を建築した場合、
下記の相続税課税対象額が減り、節税が期待できる。

  1. 所有者が自由に使えない土地の評価額は約20%減
  2. 建物の評価額は通常、建築費用未満(約50~70%)
    その建物が賃貸住宅なら、評価額は更に低下する
  3. 生前に贈与などを行い、賃貸収入を相続人の
    財産とできれば、相続税の対象から外れる

●節税対策として選択する際の注意点
以下の例などから、節税額とのバランスを見ること。

  1. 借金をした場合、後の資金繰りに困らないか?
    空室リスクについて、対策が可能か?
  2. 修繕・維持費用も含め、投資額の回収が可能か?
  3. 後の相続時に、建物が遺産争いの種にならないか?

●資産状況によって適切な節税対策の選択を
長期的な目で資産を守るなら、きちんと見積もり
行った上で、各人の状況に合わせた対策が必要です。

⇒最終的に損をしない資産運用の目安として、
   まずはお気軽にお問合わせください

お問合わせ

解説ページ索引(全5回)

  1. 〈導入〉税制改正と、開発・区画整理による地価上昇の影響
  2. 〈小耳に挟んだ噂〉軽々しく言えない・聞けない、大きなお金のハナシ
    1. 交通インフラ整備で、その周囲も開発が進む?
    2. 開発の影響で、土地が値上がりしたら?
    3. 値上がりした土地には、相続税対策が必要?
  3. 〈基礎知識〉相続と税にまつわる基本的なこと ~まずは下調べ~
    1. 相続とその範囲について知ろう
    2. 相続税の概要を掴んでおこう
  4. 〈詳細確認〉相続税って、他人事じゃないの? ~少し踏み込んで~【このページです】
    1. 税制改正(平成27年1月1日施行)の影響とは?
    2. 更地の相続税対策には、賃貸物件を建てるべき?
  5. 〈実践〉結局のところ、自分にとってのベストな方法とは?
    1. インターネットで調べてはみたけれど
    2. 専門家に相談する利点 ~税理士事務所のご紹介~